日本文学史序説

万葉集から戦後まで、日本文学の歴史について書いた本です。

あとがきに自身でも書かれていますが、文学の意味合いを広くとっており、小説、文学詩歌のみ扱う従来の文学史とは違って大衆小説や評論、経典や学術書などを万遍なく(おそらくそのバランスに大変な配慮を持って)扱い、思想史としても読める内容になっている所が特徴的です。

 

一貫した視点としては、島国日本の持つ土着的な文学(思考)と、外来の大陸文化(中国、仏教、ヨーロッパ、キリスト教、マルクス主義、それからアメリカ)が鬩ぎ合い、しかし融和も直接的な衝突もせず、並行して発達していく点です。

 

日本の土着文化とは、一貫した構造が無く部分に徹し、一神教の様な超越的な存在を持たない仕組みです。(一言でいえば短編の集合の様な作品)また、ムラならムラ、宮廷なら宮廷など、作者が集団によく組み込まれている事も指摘しています。

 

面白かった点

・鎌倉仏教が初めて、そして最後に仏教の彼岸的、超越性を時代の中核とした。

・女房社会、茶人、文人など、多くの芸からなる教養の体系を身に付けた集団があった。

・木版、俳句、間やバチの冴えを魅力とする三味線など、18世紀後半の町民文化も、瞬間の感覚を継起にしたものであった。歌舞伎なども、独立した挿話や場面の連続で、一貫した筋には大きな意味や思想がなく、部分を切り離して上演する習慣が生じた。その台詞劇も日常的な表現からなる。それは以心伝心を理想とする思想の結果でもある。

・鏡花の様な、徳川時代の抒情的、絵画的な響き、滋味、緊密を持った完成度の高い文章に対し、実人生そのままに、誰にも書ける文学を自然主義が書いた。

 

などなど。

 

とてもいい加減な言い方になってしまいますが、部分や瞬間の美学を突き詰める事、些事を大切に出来る事は、文学に限らず我々の意識に強く根付いている様に思います。

ポストモダン、価値観の多様化など色々な言い方がありますが、特化して、各々の集団の中で洗練されていく事が日本的だと言う風にも感じられました。

 

様々な宗教や思想、考え方が特に現代は大変な速度で入って来ますが、まだ独自のムラ意識を保持できると言うのは、大変な事だと思います。誇りや、礎に出来る視点が垣間見えた様にも思いました。

 

この大量の文献と比較と俯瞰、要約。それだけでも圧倒的な本です。

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